1999年10月6日 No.86

 気が付いた時にはもう遅かった。疾風のように繰り出された、正体の知れぬ相手の持ち物に、男は避ける間もなく、吹き飛ばされた。こんなはずではなかった。悔やむ男の頭上には、眩しい木漏れ日がきらめくナイフのように輝き、かすかな水音が男を正気付かせようと、優しく愛撫し始めていた。どのくらい時間が経ったのか、男は深い森の中に横たわっていた。

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