思い出すことがある。それは思い出や記憶というより、感触のようなものだ。 ひんやりとして静かな空気、一方だけから入ってくる柔らかいグラデーションとなった光。
  動けば、その空間を満たしているものは、あっという間に乱れ、台無しにしてしまいそう。車は眠っていた。でも、何も言わず、自分に向かってすーっと動き出すかも知れない。とそう思った。

  都会の真ん中、舗装された坂道の中程、亡くなった祖父の家には、貸しガレージがあった。 もう数十年前のことだが、僕はそこにそぉっと入った。 

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