頃は晩秋、山から降りる乾いた北風吹き抜ける貧しい寒村、上州倉田郷。お銀の故郷である。久しぶりに村へ戻ったお銀には、厄介な仕事が待っていた。

 「なんで、あたいはこうなんだろうねぇ・・・」

  一陣の風がお銀のうなじを吹き抜けると、その後れ毛が夕陽に輝いた。得も言われぬ美しさである。自分の身の上を慰めるかのようにも聞こえたが、しかし諦めとは明らかに違う、己への愛情と誇りがそこにあった。うっすらと雪化粧を始めた故郷の稜線を眺め、ふと振り返るように立ち止まっていたお銀は、心の埃を払うかのようにさっと向きを直すと、約束の場所へと入っていった。

「お銀ちゃん・・・」
「・・・」
「頼むよぉ・・・なんとかしてくれよぉ」
「なんとかって、こいつをかぃ?」
「あぁ・・・」
「どうにかなるもんでもないよ」
「でもよぉ、村にはこれっきりしかねぇんだぁ・・・」
「・・・しょうがないねぇ・・・でも高いよ」

 寄り合いの場となった、鄙びた分校の教室には、満身創痍、息も絶え絶えのアップライトがお銀を待っていた。


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