「オランダで若き水上の音楽録音 」

 97年7月オランダで若き水上の音楽録音
【オランダ ヒルベルサムにて コンバッティメント コンソート アムステルダ ム
 ヘンデル/水上の音楽 】
 7月10日、ヒルベルサムは、車で1時間ほどの閑静な住宅街といった風情。フィリッ プスの録音チームの本拠もここにある。この町には、多くのスタジオがある関係で 、ホテルも数多くあり、といってもとてもこじんまりした、素敵なホテルだが、 ちょっ とした音楽の大げさかもしれないけれど、ハリウッドのような、様相を呈している。
 ホテルの価格も4000円しかしない。でも丁度軽井沢か、野辺山のプチホテルのよ うな風情。周囲には、全くといってよいほどに、騒音がない。静かそのものだ。町は 、ゆったりとした、時が流れ、人々もずいぶん、ゆっくりとしている。ホテルから車 で5分ほどの、町のはずれにある、オランダラジオ放送の会館は、2年ほど前にでき たばかりで、スタジオがいくつもある、近代的な建物だった。
 中はスタジオといっても、オランダ放送交響楽団の練習する所で、まるで、ホ ールではないかと思えるくらいに広くゆったりとできている。ステージは完全にホー ルのようにせりがあがったり、後方の金管パートに行くのに、階段があったりして、整備されている。周囲の反響は、よくデザインされた、階段をいろいろなところにくっつけてオブジェにしたような感じ。しかも、おもしろいことに、有孔ボードの形を1枚1枚、角度を違うようにくふうされ、それがまた、オブジェのようだった。
  副調整室 といっても機材があるわけではなく、機材はすべて、持ち込み、ケーブルの配線がきているだけの簡素なものだった。KLMのいらなくなった、ビジネスクラス用のシート が 約30席分、ステージに向けて置かれてある。
 ステージはフル編成のオーケストラがしっかりステージに並べるように既にセッ トが施されていた。 P席には椅子が約30席ある。さりげなく、天井から青のストライ ブが下に左右各1本降りてきている。反響板は階段をひねったような形をしている。
 飛行機のビジネスクラスのシートに一日中座って、ヘンデルの「水上の音楽」を 聴いている不思議なことに、この水上の音楽の楽譜にはほとんど何の指定もないにも かかわらず、いろいろな仕掛けが施されているように聴こえる。その音は、とてもメ リハリをつけた感じで、ある時は、はっとするほどに、通奏低音が軽やかに浮き立ち ま す。激しいホルンや、トランペットの咆哮があったかと思うと、通奏低音を担当する、ものすごく長いベースの弦をもった、テオルボというリュートの親分のような楽器12弦の楽器が2台。
 しかも曲によっては、通奏低音は、ファゴット・チェロ、コントラバス、テオルボ2台、大きなチェンバロ、小さなチェンバロ、そして、オルガンまでが動員されています。それがある時はその中のテオルボと、チェロそれにチェンバロの小さいやつが、一体となって通奏低音を担当したかと思えば、あるときは、全員で通奏低音を 担当したりして、それはそれは、バリエーションを多く含んでいます。 メンバーはオラ ンダ ロッテルダム、ラジオフィル、コンセルトヘボウなどの仕事をもつ面々が、もうひとつ、自分自身で、表現しようと集まってきています。
 テオルボ奏者、そして、ティンパニは18世紀オーケストラにも参加している人 々。今日はフェアブリュッヘンが入る。あの有名なハルモニア・ムンディのリコー ダーのCDを思い出してしまう。スニーカーをはいて、少年のような髪をした、永遠の少年といった風情の彼女は、リュックの中からリコーダーをあまりにも無造作に取り出すと、一気に吹き出した。その弾き方といったら、天衣無縫というか、軽やかで、しかも何かの迷いがなく、しかも、よどみなく音が空間に繰り出される。このコンバッ ティメントの弾き方はみんなそんな感じだ。八分音譜を飛び跳ねるように弾く。
 アーティキュレーションの付け方は、頭からデタッシェでアクセントのとりかたのすごいことといったら!1つ1つが組織だっている。完全なる踊りの音楽。 レコーディングは、次から次へと人がやってきて、又、次から次へと去っていく 。まるで、この『水上の音楽』は、豪華な花鳥刺しのパパゲーノの笛もあんな感じなんではないだろうかと思えてくる。コンバッティメントの演奏は、花見弁当のような感 を呈している。
 フェアブリュッヘンの出番も1曲だけ、ぱっとやってきて、気持ち良くリコーダ ーを響かせて、また、羽根のはえた鳥人間のように去っていく。今度は、フルートト ラベルソの女性が参加。昨日もホルンが二人。トランペットも二人、ティンパニが参 加。トランペットを吹く首席は、大リーグ行った伊良部と呼んでしまおう。顔まん丸 く、ちょっと小太り気味で。トランペットの伊良部は、ステージの斜め後ろファース トバイオリンの後方に位置する。伊良部は、ロッテルダムフィルの首席、江崎による と、ものすごく厳しい吹き方に挑戦しているそうで、音は厚く、びんびんくる。しかも自分の音の出方について、厳しく自分で、チェックをし、何度も副調整室を訪れて 、聴こえ方を研究、立ち位置がきまると、自分がすわって、吹くのか、立って吹くの か、あれこれとやってみた後に、立って吹くことに決める。
 ホルンは、全体に音がきれいに回り込むように、全体のステージではなくて、マ イクでいえば、後ろの方の右に、位置し、後ろについたての代わりの、机を3つ、この二人も超強力な音を繰り出す。ティンパニは、ホルンと対称的に、ステージの左前 に位置する。
 ファーストバイオリンの斜め前だ。ティンパニの「ケトルドラム」ということが そっくりな小ぶりの自分一人で持ち運べるもちろん革のものを小さな木でできた、ばちで、パン、パン!と、心地よく軽く叩く感じ。ものすごくアタックのしっかりとし た音、音色をどんどんパレットで作っていく面白さがある。
 世界的に見てもとても豊かな国民生活であるオランダの国民は、どちらかといえ ば、ずいぶんさっぱりしていて、ヨーグルトに何も入っていないヨーグルトみたい 。ものすごくめりはりがきっちりとしていて、やるときはやる、やめるときは、ぱっとやめて、次のアクションを起こす。だから、とてもさわやかで、軽く、特に早いパッセ ージにつよく、これだけ軽く動くと、聴いているでも、のってくるというか。
 コンサートマスターのヤン・ビレムに聞く。「通奏低音には、大きくいって 、3つの色がある。悲しいときは、オルガンを使うといいし、楽しい時は、チェンバ ロふたつ、そして、いつもは、テオルボの入ったり、ファゴットや、チェンバロや、チェ ロ、コントラバスと、使い分けているのです。最初の部分の、ホルンがかなり、大きいって? 実はホルンは当時狩猟用に使われていたので、静かでなく、大きめの音を出 していたのです。当時、演奏の方法は、演奏家にまかされていたのです。だから、ヘ ンデルは何にも書かなくたってよかったのですよ。なんでもできたのです。だから解釈はもうたくさんあるのです」
  1、コンバッティメントのいう、リズムの軽さは、固い板の上で踊る時、必ず爪先立ちで、次のステップにうつるという、3拍子の3拍子めが、ほとんど、前の続きでしかないということにあらゆる踊りの音楽が基づいているということ。  だから、明らかに、リズムが軽くてしかも合うと思うということ。これが日本で は必ず重くなるだろう。
  2、アムステルダムコンツェルトヘボウでの演奏会が7月7日を中心に2回行われ、切符はソールドアウト。その前に別のところで、練習を3回行ったこと。最初の曲の後 に「うるさい曲」の部分で、階段をファーストバイオリンの人の追加の人、や、ファ ゴットととともに、テオルボをもっておりてきたこと。
  3、コンチェルトヘボウの演奏会では、チェンバロは1本だったが、録音の時に2本に した.2本にすると何がよいのかというと、悲しい音と、楽しい音との間に、より大きな幅ができるということ。当時ヘンデルの時代にテオルボが本当に使われていたがどうかは不明。しかし、バッソコンティヌオとだけ書かれていて、それが何の楽器と いう指定はない。テオルボ奏者は目立ちたがり屋だから、どこかで、自分を出そうとする。
 トムの場合それが、オペラでも弾いているので、より大きい音で出てくるように 思う。135とあるとすれば、それはドミソと弾けという意味。これを、コントラバス と 同時にぼろんとやる。でもドミソでもソドミでもアドリブで自由。ジャズ奏者のよ うに、毎回違う方法で挑戦してもかまわない。テオルボとかリュートは、3度音程に することで、わざと、はもりでない不響和音みたいな効果を出してみる。ジャズみた いなところもある。コンバッティメントコンソートがやるテーマはきわめて自由であるということ。