1999年10月16日 No.93

 西の京を訪れる人は多いが、外構を失ったこの石壇を拝観する人は希な唐招提寺・戒壇。戒壇とは、僧が僧としての資格を授かる受戒の儀場だが、当時の日本にはその場所はおろか、授戒の師さえ居なかった。井上靖描く「天平の甍」に詳しい、同寺開祖・鑑真和上苦難の来朝の目的はこの為にこそあった。聖武天皇の寵招に応え、失明までしての初志貫徹、我が国の多くの高僧に戒を授けたその戒壇こそ、東大寺に創めた和上だが、常に青々と茂る竹林を背景に、近年の奏安になるサンチーの古塔を模した宝塔擁する、堂々たるその姿は、アジアを席巻した仏教の初々しさと、大きな優しさを感じさせて止まない、筆者愛着の光景である。

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